命の刻印、音圧の源
「日本の伝統楽器」に、和太鼓を挙げる人は多いだろう。古来神事や雨ごいなどの行事、民俗芸能に欠かせない楽器として用いられてきた。だが、最近活躍する和太鼓の演奏スタイルの歴史は、実は新しい。
民俗芸能としての和太鼓は、あくまでも脇役の楽器だった。様々な和太鼓の組み合わせで演奏する「組太鼓」は、高度成長期以降に、現代の創作太鼓の流れの中で生まれたもの。60年代後半から、プロの創作太鼓集団が次々と世に出た。背景には、伝統文化への関心の高まり、大阪万博の開催など海外とのかかわりの中で、日本独自の楽器への注目もあったようだ。
神社や寺院で使われ、「宮太鼓」とも呼ばれる「長胴太鼓」は、ケヤキなどをくりぬいた胴に、皮を鉄の鋲で留める。縄やボルトで上下の皮を占める「締め太鼓」には、小ぶりで高い音を出す「附締太鼓」、杉板などを桶状につないで胴を作る「桶胴太鼓」などの種類がある。両面に皮を張り、ほとんどがバチで打つというのが、日本の太鼓の特徴だ。
打面には牛などの皮を使う。3尺(約1メートル)ほどの大太鼓になると、牛の背中側からいっぱいに採るため、打面の中央にうっすらと背筋の線が見える。長胴太鼓のくりぬき胴には、年を経た大木の年輪が浮かびあがる。生々しい命のしるしが、数ある楽器の中でも卓越した音量を誇る和太鼓のパワーの源泉のようにも見える。
都会の「なまり」持つ音を 東京打撃団
平沼仁一代表(47)が、創作太鼓の雄「鬼太鼓座」「鼓童」を経て95年に結成したのが東京打撃団。太鼓打ちの体は、打ち込みでしか作られないとの信念を持つが、あえて練習場所の確保が難しい「東京でこそ生まれる音」を追求している。
太鼓の音にはその土地の「なまり」が現れ、それが独特の味わいとなる。ならば、膨大な情報にあふれた東京には、東京の「なまり」があるはずだ、と平沼は言う。
現在は田川智文(26)、加藤拓哉(24)、関根まこと(22)、横山亮介(23)、篠笛奏者の村山二朗(37)の5人をメーンに活動する。練習中には、年長の村山が舞台を降り、メンバーの表情を見て笑顔を促す。「真剣な顔で打つのは簡単だけど、楽しさも出していきたい」休憩時間の会話はたわいない。しかし太鼓に向かう時には、太鼓と、自身への闘志があらわになる。その音は観客の体をも打ち、揺さぶる。ホール全体が震動するほどの音圧だ。新しい「伝統」への生き残りをかけて、時に笑顔で、彼らは打ち込んでいく。
雄姿もすてき 歌手・小林幸子さん
和太鼓の響き、大好きです。奏者からしてすてきでしょ? 背筋をピンと伸ばし、重心を腰に据え、体中にエネルギーがみなぎる・・・。私も和太鼓のけいこをしましたが、歌うときの姿勢、腹式呼吸にも通じる所がありました。世界各国、打楽器数あれど、やはり「和太鼓」は世界一!「東京打撃団」さんのますますのご活躍に期待しています。